【過去問解説】手続き的公正とは?成果配分の「納得感」を生む組織設計のヒント

 

はじめに

成果や報酬の「分け方」は、組織における人間関係やモチベーションに大きな影響を与える要素です。
このとき、結果の内容だけでなく、「どのように決定されたか」というプロセスそのものが、公正であると感じられるかどうかが極めて重要です。

今回取り上げるのは、令和6年度の企業経営理論 第19問。
キーワードは「手続き的公正(Procedural Justice)」。
制度の“中身”よりも“進め方”に着目したこの概念は、組織設計や人事制度の見直しを行う診断士にとって、実務的にも試験的にも押さえておきたい重要テーマです。

手続き的公正の基本と評価基準

「手続き的公正」とは、分配の結果そのものではなく、その過程が公正であったかどうかを評価する考え方です。
これは、社会心理学や組織論の分野で発展してきた理論で、特にティラー・タイラーらの研究が有名です。

人々がプロセスを「公正」と感じるためには、以下のような要素が満たされている必要があります。

公正の要素 内容
一貫性(Consistency) 同じ状況に対しては常に同じ手続きが適用される
偏見の排除(Bias suppression) 決定に私情や差別が含まれていない
情報の正確性(Accuracy) 十分で正確な情報に基づいて判断されている
修正可能性(Correctability) 間違いがあれば修正・異議申し立てができる
意見表明の機会(Voice) 関係者が意見を述べるチャンスがある
倫理性(Ethicality) 社会的・道徳的に妥当な手続きであること

これらの条件を満たすことで、仮に期待どおりの結果でなかったとしても、当事者は「納得」しやすくなり、組織への信頼やモチベーションが維持されるのです。

過去問で確認しよう(令和6年度 第19問)

では、実際の試験問題を見てみましょう。
以下は令和6年度 中小企業診断士 第1次試験「企業経営理論」第19問の内容です。

限られた資源や成果を組織メンバーに分配するに当たっては、公正な手続きを経る必要がある。このような分配手続きにおいて求められる公正を「手続き的公正」と呼ぶ。分配を受ける組織メンバーが、ある分配手続きを「公正である」と肯定的に評価する際の判断基準に関する記述として、最も適切なものはどれか。

ア 一般的な道徳や倫理基準の影響をできる限り排除した独自性の高い分配手続きであること
イ 特定の対象者だけに他者よりも優遇された分配手続きが適用されること
ウ 分配手続きの影響を受ける人々の関心や価値観をできる限り排除した分配手続きであること
エ 分配の決定プロセスにおいて修正や不服申し立ての機会があること
オ 分配を決定する際に利用される情報が曖昧さを含むものであること

 

 

解説・正解を見る
  • ア:×
    倫理的・道徳的正しさは、公正な手続きに不可欠。排除すべきではない。
  • イ:×
    特定の人だけを優遇するのは、偏見の排除や手続きの一貫性という公正の原則に反する。
  • ウ:×
    関係者の関心や価値観を排除するのは、意見表明(voice)の機会を奪い、プロセスへの納得感を損なう。
  • エ:○(正解)
    「修正や不服申し立ての機会がある」=Correctabilityの要素を満たしており、手続き的公正において重要な基準。
  • オ:×
    判断に使う情報は、曖昧ではなく正確であることが求められる。

正解は エ

試験対策と実務への応用

この問題は、単なる知識の暗記ではなく、正しそうに見える選択肢(ア・ウ)をいかに排除できるかという判断力も問われています。

また、手続き的公正の考え方は、次のような実務領域にも応用できます:

  • 人事評価制度の設計(例:フィードバックや異議申立て制度の導入)

  • 社員の納得感を高めるコミュニケーション設計

  • 組織改革・制度変更時の手続きの透明性確保

診断士として、制度そのものの内容だけでなく、「納得してもらえる設計か?」という観点を持つことが、より実効性の高い提案につながります。

記憶に残すポイント

  • 手続き的公正とは、プロセスの納得感に関する評価軸

  • キーワードは「修正可能性(correctability)」「意見表明(voice)」「正確性(accuracy)」など

  • 令和6年度の第19問では「修正や不服申し立て」が正解に

この知識は単なる試験対策にとどまらず、「人の心を動かす制度設計」にもつながる、大変実務的な学びです。