出題テーマと学習ポイント
今回扱うのは「国民経済計算(SNA: System of National Accounts)」に関する設問です。特にGDP(国内総生産)の定義や計上対象、計算方法に対する基本的な理解を問われます。
学習ポイント:
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GDPの計算方法(生産面・分配面・支出面)
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市場取引の有無によるGDPへの計上可否
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公共サービスや移転支払のGDPへの影響
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家事労働などの非市場活動の扱い
GDPと国民経済計算の基本
GDP(Gross Domestic Product)は、ある国の経済活動によって一定期間内に新たに生み出された付加価値の総額を表します。計算には3つのアプローチがあります:
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生産面:生産額(総産出)から中間投入を差し引いたもの
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支出面:民間消費+政府支出+民間投資+純輸出
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分配面:雇用者報酬、営業余剰、固定資本減耗、間接税-補助金
GDPに含まれないものの例
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中間財の価値(付加価値ではない)
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家事やボランティアなど市場で取引されない非経済活動
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移転支払(年金、生活保護など):所得の再分配であり、新たな財・サービスの生産ではない
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キャピタルゲイン(資産価格の変動による利益):実体経済の産出ではないためGDPに含まれない
過去問で学ぶ:経済学・経済政策 令和6年度 第4問
国民経済計算の考え方に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア GDPは、中間生産物の生産額の合計である。
イ GDPは、分配面から、要素所得、移転支払による所得、キャピタルゲインに区分される。
ウ 高等学校の授業料を無償化すると、無償化された授業料の分だけGDPが減少する。
エ 子どもが家庭内で家事を担ったとしても、GDPには計上されない。
解答と解説はこちら(クリックで展開)
【正解】エ 子どもが家庭内で家事を担ったとしても、GDPには計上されない
ア:誤り
GDPは中間生産物ではなく、最終生産物(付加価値)の合計です。中間生産物は二重計上を避けるためGDPには含まれません。
イ:誤り
分配面から見たGDPには、要素所得(雇用者報酬・営業余剰など)が含まれますが、移転支払やキャピタルゲインは含まれません。これらは新たな生産活動による付加価値ではないためです。
ウ:誤り
授業料無償化は、支払主体が家庭から政府へと移るだけで、教育サービスという経済活動自体がなくなるわけではないため、GDPに影響はありません。
エ:正解
家庭内の家事や育児など、市場で取引されない非経済活動はGDPに含まれません。たとえ社会的に価値があっても、SNAの定義では計上されないのが原則です。
重要ポイントの振り返り
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GDPは「市場で取引される最終生産物の付加価値」の合計である
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中間財・家事労働・移転支払・キャピタルゲインはいずれもGDPに含まれない
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政府の教育支出(授業料無償化など)は、市場価値に基づいて評価されるため、GDPに変化はない
おわりに
この問題は、国民経済計算の基本に立ち返る良問です。特に「市場で取引されているかどうか」という観点でGDPに含まれる・含まれないを判断する力が求められます。
国民経済計算は一見抽象的ですが、実社会の制度や政策と密接に関わる分野です。今回のような「無償化」「家庭内労働」などの事例問題に慣れておくと、本番でも動じずに対応できるでしょう。