はじめに
中小企業診断士1次試験「企業経営理論」では、近年注目の理論が出題される傾向が強まっています。
その中でも、起業家の思考様式として注目されているのが「エフェクチュエーション(Effectuation)」です。
この考え方は、未来が予測できない状況において、どのように意思決定をするかという問題に対する、実践的な解を与えてくれる理論です。
この記事では、エフェクチュエーションの基本と、令和6年度試験における実際の出題をもとに、具体的な理解を深めていきます。
エフェクチュエーションとは
エフェクチュエーションは、アメリカの起業学者サラス・サラスバシー(Saras Sarasvathy)が、熟達した起業家の行動様式を研究した結果、導き出した理論です。
ポイントは「予測できない未来にどう向き合うか」。
従来の戦略論(コーゼーション)では、まず目標を設定し、その目標を達成するために必要な資源や手段を揃え、計画を立てて進めていきます。
一方で、エフェクチュエーションでは、
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今ある資源(人・知識・スキル・ネットワークなど)を出発点とし、
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将来を予測するのではなく、自分の行動によって未来を「創っていく」ことを重視します。
エフェクチュエーションの5原則
- 手中の鳥の原則
今あるもの(自分のスキルや人脈など)を使ってスタートする。 - 許容可能な損失の原則
最大利益ではなく「どこまで損しても大丈夫か」で意思決定する。 - クレイジーキルトの原則
他者との共創を重視し、関係者とともに未来を作っていく。 - レモネードの原則
予期しない出来事を柔軟に受け入れ、チャンスとして活かす。 -
パイロット・イン・ザ・プレーンの原則
未来は自分の行動によって決まるという信念に基づいて行動する。
過去問で学ぶ:令和6年度 企業経営理論 第13問
以下は、2024年度(令和6年度)に実際に出題された問題です。
問題
熟達した起業家にみられる意思決定の様式とされるエフェクチュエーションに即した行動に関する記述として、最も不適切なものはどれか。
ア 既存の製品を製造する時に使用していた温水に着眼し、その温水を利用してイチゴのハウス栽培を始めた。
イ 新規店舗を開設する際に、目標店舗数を設定するのではなく、許容できる損失額を重視して、段階的に店舗数を増やしていった。
ウ 大災害が起こったことによって大きな被害を受けたが、新聞報道などで被災地に注目が集まったことを利用して、自社製品の広告に力を入れた。
エ 他国で戦争が勃発し、エネルギー価格の変動が見込まれるため、過去20年分のデータを精査して、来年度の利益目標を立てた。
オ 発売した新製品に対してある顧客からクレームを受けたが、その顧客に製品改良のための活動に参加してもらい、製品の品質向上を図った。
正解と解説を表示
正解:エこの選択肢では、過去のデータ(20年分)を精査して利益目標を立てています。 これは将来を予測し、その予測に基づいて目標を設定する「コーゼーション型」の意思決定に該当します。
エフェクチュエーションでは、予測不可能な環境下で、「どのように未来を創っていくか」という視点が重要なため、「予測に頼る」という発想自体が適していません。
他の選択肢について
- ア: 既存の温水を転用する → 「手中の鳥の原則」
- イ: 損失許容を前提に段階展開 → 「許容可能な損失の原則」
- ウ: 災害という想定外を広告戦略に転換 → 「レモネードの原則」
- オ: 顧客と共に製品改良 → 「クレイジーキルトの原則」
いずれもエフェクチュエーション的な考え方に基づく行動です。
学習のポイント
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エフェクチュエーションの出題は近年増加傾向にあり、今後も要注意
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キーワードは「予測困難」「今ある資源」「柔軟な対応」「共創」「偶発性」
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コーゼーションとの違い(ゴール先行 vs 手段起点)を明確に整理しておく
おわりに
エフェクチュエーションは、単なる理論用語ではなく、診断士として企業の支援を考えるうえでも有効な思考フレームです。
試験では、言葉そのものよりも「どんな場面で、どんな行動がふさわしいのか?」が問われています。
用語の理解と合わせて、事例的な思考を意識することで、確実な得点力につながります。